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新年のご挨拶

平成29年(西暦2017年)の新春を迎えるにあたり、ご挨拶申し上げます。

昨年までの国際社会の動きを振り返りますと、米国はオバマ政権誕生を機に“世界の警察官”であることを断念、その結果パワーバランスが崩れて、イラク、ウクライナ、シリアをはじめ世界各地で紛争が長期化、夥しい難民が欧州共同体(EU)に押し寄せ、英国のEU離脱に始まるEU解体の危機と極右ナショナリズム台頭に繋がっていることはご存知のとおりです。

また、グローバリゼーションの進展に伴い、米国や日本などの製造業の生産拠点の国外移転(国内では産業の空洞化)や非正規雇用の増加に拍車がかかり、社会のさまざまな格差拡大をもたらしています。中産階級が社会階層から滑り落ちたことを背景にトランプ大統領が誕生しました。大国(米国、中国、ロシア)は軍備拡張を背景に自国の利益を最優先する政策に転じ、所謂“新帝国主義”の様相を呈しています。SNSが進化する現代社会においても、パワーポリティクスや偏狭な思想はなくなりそうもありません。

私たちが日々取り組んでいる医療の世界に目を転じますと、国と地方の巨額の債務負担の増加に歯止めをかけようとして、国の一般会計歳出の3分の1を占める社会保障給付費(年金、医療、福祉その他)と歳入の税との一体改革が骨太の方針として打ち出されました。未曾有の少子高齢化を迎えたわが国にとって、この難局をどう乗り越えて社会保障制度を継続可能なものとするかが喫緊の課題です。国はすでに在院日数の短縮と予防医療を掲げ、前者については一定の成果を収めています。地域医療構想、後期高齢者支援金の全面総報酬割導入、後発医薬品の使用促進、被保険者の所得水準の高い国保組合の国庫補助の見直しなどを打ち出しています。

わが国の精神科医療は、主に経済原則(精神障がい者の労働生産性は低いという前提)から、戦後長年にわたり低い評価(医療法が定める人員配置が少ないこと、診療報酬上は高額な医療機器が必要でないことなどを理由に)に甘んじてきました。昭和39年の精神衛生法改正を機に、通院医療費の公費負担制度発足により精神科医療を受けやすくなった(アクセス向上)一方で、国の後押しで全国に雨後の筍のように精神科病院が新たに開設され、どの病院も団塊の世代を中心とする入院患者さんで溢れていました。当時は精神科病院に常勤する精神科医も正看護師も少なく、退院を支援する精神保健福祉士や作業療法士も存在せず、少ない人員で大勢の入院患者さんを診(看)ていた状況でした。パターナリズムや施設症が精神障がい者の自立を妨げたと、今になっては言えるのでしょうが、まず収容ありきの時代において、当時の圧倒的なマンパワー不足と治療についての悲観主義を考えると、医療の質は後回しにならざるを得なかったといえましょう。

平成25年度から精神疾患が医療法の医療計画に位置付けられる国民的重要疾患に組み入れられましたが、精神科医療の全般的な底上げ(一般医療と同じ評価)はなされていません。兵庫県地域医療構想(平成28年10月)の中では、精神障がい者の退院促進と地域移行の推進、認知症疾患対応力・連携強化が記載されているのみで、日々の臨床がどう変わるのか判然としません。一般病床の機能分化が医療法で規定されているのに対し、精神病床の機能分化が診療報酬で規定されているために、精神疾患を含めた包括的な地域医療構想が策定できなかったと推量されます。リハビリテーションといえば、脳卒中や大腿骨骨折などの身体疾患が対象で、精神疾患のリハビリテーションは別枠と捉えられてきた歴史を知っている者にとっては、医療全般に占める精神科の認知度はまだこの程度かと思い知らされます。

 とはいえ、精神障害者数は、平成26年には在宅ベースで392万人(内閣府、平成28年障害者白書)に達し、身体障害者数に追いつき追い越す勢いで増加の一途を辿っています。統合失調症や双極性感情障害の発生確率は不変とすると、うつ病、うつ状態と診断される数が急増し、さらに認知症が高齢化社会を反映して漸増していることが分かります。新規抗うつ薬(SSRI,SNRI等)の導入、精神科診療所の増加とアクセスし易さの向上、国の自殺対策を受けた精神科以外の医師による診断と治療の増加もその一因でしょうが、うつ病、うつ状態と診断される数の急増は、社会のゆとりのなさ、セーフティネットの不完全さを映し出しているのではないかと危惧します。

それでも、歩みは遅いものの、入院から地域生活への国の方針転換に伴い、精神科医療を取り巻く環境は急速に変貌を遂げようとしています。ただし、医療の現場からみると、変革によって何がどうよくなったのか実感が湧きません。精神科救急や急性期治療だけが注目され、地域移行に乗れない高齢化した長期在院者の医療をどのように展開するのかは未解決です。また、どの医療現場も同じでしょうが、医師も看護師も在院日数のコントロール、各種委員会・研修会への参加、記録などに忙殺され、患者さんと向き合う時間が少なくなったように思えるのです。

私たち姫路北病院のスタッフは、こうした時代の変化や要請に柔軟に対応しながら、変えてはならない精神科医療の本質は何なのかを常に問い続け、精神科医療を支える次世代の育成に一層注力し、良質で安全な医療のための凛とした規律の中にも、患者さんやスタッフの笑顔が絶えない病院づくりを目標に、これからも誠実に取り組んでいきます。地域の精神科医療という名の土壌に、我々の努力がやがて開花結実するように、種をまく人でありたいと願っています。





 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
2017年1月04日